軟文

谷村新司の訃報を知り、まず、氏について思い出したのは、「ビニ本」コレクターであったということと、その好色そうな顔つきとでした。

いわゆる、「艶本」のお得意に、総理や宮様がいる、という話は、「有光書房」の出版人たる、坂本篤について書かれた本で知りましたが、購買客にそうした「お得意」がいたことで、この艶本出版社がいろいろな危難を乗り越えた、ともその本には書かれていました。

古書展などでよく見かける、「有光書房」の美麗な函入本。

手に取り函から出すと、これまた、手擦れのない、ウブな姿に陶然とします。

もちろん、そうした上製本もキレイなら、文字・組版、用紙にいたるすべてに、坂本の審美がそそがれているのは、「有光書房」の本を手にしたひとであれば、おわかりいただけることでしょう。

その坂本が、「艶本出版」を志そうとしたきっかけが、「末摘花」と知り、私などが、「末摘花」と聞いて思い出すのは、「源氏物語」に出てくる不美人な女性である、ということくらい。

それの古川柳を集め、詳釈をつけたものに、これも、坂本界隈の出版人、岡田甫(はじめ)の「川柳末摘花詳釈」(上下巻)があり、これまた、坂本の「有光書房」から刊行されています。


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出版人、岡田甫(はじめ)に行き着くまで、数十行を費やしてしまいましたが、そのかみの出版人が、主宰者となり、そうした、江戸軟文学の研究会を、冊子のかたちをとって行っていたものに、「近世庶民文化」があります。


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創刊は、昭和25年10月のことであり、昭和41年3月まで、100号+1冊を出して、二十年弱ものあいだ、続きました。

「近世庶民文化」が、「軟文学」を扱っている以外、私の興味を惹かない冊子のコンプリートに、十数年間もの時間をかけているのは、その「興味」の出所である、男性同性愛会員雑誌「ADONIS」発刊より、二年早く、しかも、その執筆陣ラインナップが、このギリシャ研究会をかたる「ADONIS」(初期)のそれと、重なることにあります。

あとは、双方の雑誌が、拙い活版印刷によっていて、文字・組版、用紙の類似に、いまや、高嶺(値)の花となってしまった、そのかみの「ADONIS」を、彷彿とするからでしょうか。

そんなわけで、「近世庶民文化」全100号+1冊コンプまで、23冊(改訂 : 内20冊は、42~61号の通巻ゆえ、あと3冊でコンプ)を残すのみとなりました。(本冊増刊、「臙脂筆」1~5、その他も所持する(改訂 : 未所持13冊))


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その後、昭和43年6月から、これも、岡田の主宰になる「紫」が発刊されていますが、それを、通しで17冊所持するものの、以後、続刊されたかは、寡聞して知りません。(改訂 : 21冊+1冊、昭和48年6月まで)


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